基礎化粧品ブランドは、当たり前ですが、ブランドによって戦い方がまったく違います。
・ひとつの名品をリニューアルしながら育てていくブランド
・シリーズの中に新商品を追加して世界を広げていくブランド
・トレンド成分やSNSの反応に合わせて、スピード感を持って新商品を出していくブランド
今回は、ランコムの代表的な美容液「ジェニフィック」から見えてきた、化粧品ブランドごとの商品戦略・ラインアップの作り方について整理してみます。
「商品を育て続ける」戦略
ランコムといえば、代表的な商品は「ジェニフィック」です。
美容好きであれば、一度は名前を聞いたことがある。雑誌のベスコスでもよく見かける。
20代の美容感度が高い人から、40代以降の年齢肌ケアを意識する人まで、幅広い世代に知られている名品美容液です。
ランコム公式では、ジェニフィックの歴史をこのように紹介しています。
2009年に初代「ジェニフィック」が誕生。
2013年に発酵科学の着想を得て「ジェニフィック アドバンスト」へ進化。
2019年には美肌菌研究の知見を搭載した「ジェニフィック アドバンスト N」が誕生。
2024年には、先進科学研究から次世代成分を配合した「ジェニフィック アルティメ セラム」が誕生しています。
つまりランコムは、まったく別の商品を次々に出すというより、“ジェニフィック”という資産を持ち続けながら、研究・成分・処方の進化を重ねているブランドです。
リニューアルは、既存客にとっては“進化を楽しむイベント”になる
ジェニフィックの口コミを見ていると、「リニューアル前から使っている」「何度もリニューアルするたびに使ってきた」「今回は過去一番よかった」という声がありました。
こういった声から、既存のお客様にとってリニューアルとは、「次はどんな使用感になったんだろう」「今回の成分はどう変わったんだろう」「前より自分の肌に合うかもしれない」と感じる、ブランドとの関係を更新する機会になります。
新規客にとってリニューアルは「見たことある商品」と出会い直すきっかけになる
もうひとつ大事なのが、新規のお客様への効果です。
ジェニフィックのような商品は、長く売られているからこそ、多くの人がどこかで一度は目にしています。
人それぞれ、肌の悩みや年代によって、その商品と出会うには「タイミング」があります。
そのため、丁度良いタイミングで、「あ、これ見たことある」「ずっと有名なやつだ」「しかも新しくなったんだ」と思えることは、とても強い。
そこにリニューアルというニュースが加わることで、“知っている商品”が“今、買う理由のある商品”に変わる。
これが、名品リニューアルの強さだと思います。
デパコスの中にも、商品の育て方にはいくつかの型がある
ここから、ランコムだけでなく、デパコス全体を見ていきます。
大きく分けると、デパコスには以下の3つの型があります。
① 名品リニューアル型:ひとつの商品を研究の進化で育てていく
ランコムのジェニフィックは、まさにこの型です。
ブランドを代表する商品を持ち、その商品を数年ごとにリニューアルする。
そのたびに、最新の研究、成分、肌知見、テクノロジーを加えていく。
この型の強さは、ブランド資産が積み上がることです。
一度ヒットした商品を、単なる過去の名品にしない。今の時代にも合うように、語り直す。
ランコムでいえば、ジェニフィックという商品名は残しながら、発酵科学、美肌菌、回復科学といった新しい美容文脈を乗せています。
クレ・ド・ポー ボーテの「ル・セラム」も近い考え方です。公式では、Radiant Lily Concentrateを配合してリフォーミュレートされたファーストステップ美容液として紹介されています。
ディオールの「カプチュール」も、長く続くラインを時代に合わせて再構築している例です。2025年のDior Captureでは、新しい[OX-C Treatment]テクノロジーを打ち出し、セラムとクリームを中心にリニューアルしています。
この型のブランドは、新商品を乱発するというより、“このブランドといえばこれ”という商品を持ち、その商品を進化させていく。
メリットは、信頼が積み上がること。既存客が離れにくくなること。新規客にも「あの有名な商品が新しくなった」と伝えやすいこと。
一方で、難しさもあります。名品であるほど、変えすぎると既存客が離れる。でも変えなさすぎると、古く見える。
だからこの型は、変える部分と残す部分の設計がとても重要です。
② シリーズ拡張型:ひとつの世界観の中でアイテムを増やしていく
次に多いのが、シリーズ拡張型です。
これは、ひとつの成分や世界観を軸にして、化粧水、美容液、クリーム、アイクリーム、マスクなどを増やしていく方法です。
たとえばシャネルの「サブリマージュ」は、ヴァニラ プラニフォリアの力を軸に、セラム、クリーム、アイケアなど複数のアイテムで構成されています。公式ページでも、サブリマージュのクリームにはリッチなものから軽やかなものまで、複数のテクスチャーがあると紹介されています。
この型は、商品単体というより、シリーズ全体でブランドの世界観を作るのが特徴です。
同じシリーズの中でも、
軽いクリーム
濃厚なクリーム
アイクリーム
セラム
ローション
マスク
のように展開することで、お客様はひとつの商品からブランドに入り、そこからライン使いに広がっていきます。
この型のメリットは、顧客単価を上げやすいことです。
美容液で入った人が、クリームも買う。
クリームを使っている人が、アイケアも買う。
季節によってテクスチャーを変える。
年齢や肌悩みが変わったら、同じシリーズの別アイテムに移る。
つまり、ひとつのシリーズの中で、お客様の使用シーンを広げることができます。
ただし、シリーズが増えすぎると、何を選べばいいのかわかりにくくなることもあります。
だからシリーズ拡張型では、ライン全体の世界観と、各アイテムの役割の整理がとても重要です。
③ 限定・季節・質感違いでニュースを作る型:商品の中身だけでなく“出会い方”を変える
デパコスでは、限定品や季節品も重要です。
特にメイクアップではわかりやすいですが、スキンケアでも、限定キット、ホリデーコフレ、限定パッケージ、ミニサイズセット、季節限定の使い方提案などがあります。
この型は、必ずしも中身を大きく変えるわけではありません。
むしろ、同じ商品に新しい出会い方を作るという考え方です。
たとえば、
・初めての人向けのスターターキット
・既存客向けの限定デザイン
・季節の肌悩みに合わせたセット
・旅行用やギフト用のミニサイズ
・百貨店限定・公式EC限定のセット
などです。
この型の強さは、既存商品に“今買う理由”を作れることです。
リニューアルほど大きな開発は必要ない。でも、売場やSNSではニュースを作れる。
特にデパコスは、商品そのものだけでなく、「持っていて嬉しい」「プレゼントしたい」「限定だから欲しい」という感情も購入理由になります。
デパコス以外のブランドは、商品の育て方がどう違うのか
ドラッグストア系、ロフト・PLAZA系、韓国コスメ系、SNS・ネット系ブランドはどうでしょうか。
① ドラッグストア系ブランド:悩みと成分を軸に、シリーズを生活者仕様へ広げていく
ドラッグストア系の基礎化粧品ブランドは、デパコスとは違う強さがあります。
それは、生活者の悩みと価格感覚に近いことです。
たとえば肌ラボは、保湿にこだわった製薬会社のスキンケアとして、極潤、極潤プレミアム、白潤、エイジングケア、オールインワンなど、悩みや使用目的に合わせてシリーズが展開されています。
メラノCCは、しみ・ニキビ跡・毛穴悩みにアプローチするビタミンC配合のスキンケアとして、美容液、化粧水、乳液、クリーム、マスク、洗顔、UV乳液などへ広がっています。
売り場に来る顧客層の違いもあり、ドラッグストア系は「名品をラグジュアリーに育てる」というより、生活者の悩みに合わせて、使いやすい価格とアイテム数で広げていくということです。
たとえば、メラノCCであれば、最初に美容液で認知を作り、そこから化粧水、乳液、マスク、洗顔、UVなどへ広げていく。
これは、「ビタミンCといえばメラノCC」「しみ・ニキビ跡・毛穴ならメラノCC」という記憶を作る戦略です。
デパコスのように、ひとつの美容液を何万円の商品として育てるのではなく、同じ悩み・同じ成分軸で、毎日のスキンケアに入り込んでいく。
ここがドラッグストア系ブランドの強さです。
② ロフト・PLAZA系ブランド:“発見される商品”を作り、カテゴリーや使用感で広げていく
ロフトやPLAZAで強いブランドは、ドラッグストア系とも少し違います。
ここでは、見つけた瞬間に試したくなることが大切です。
価格はデパコスほど高くない。でも、ドラッグストアほど日用品感だけではない。少し新しくて、少し可愛くて、少しSNSで話題になりそう。
この領域のブランドは、ひとつの悩みや使用シーンに対して、わかりやすく新しい形の商品を出すことが多いです。
たとえば、
トナーパッド
シートマスク
ブースター美容液
部分用クリーム
針美容液
毛穴ケアパック
ミスト
ミニサイズ
などです。
この型では、「これ、今の悩みに合いそう」「見た目が気になる」「SNSで見たことがある」「価格的に試せる」という購入が起きやすい。
だから、商品の育て方も、売場で発見される接点を増やす方向になります。
ロフト系ブランドは、商品単体が“売場のコンテンツ”になっていることが多いです。
商品名を見ただけで、何に使うものかがわかる。
パッケージを見ただけで、肌悩みや気分が伝わる。
棚で見た瞬間に、手に取りたくなる。
ここがデパコスとは大きく違います。
③ 韓国コスメ系ブランド:トレンド成分とカテゴリーを、スピード感でシリーズ化する
韓国コスメ系ブランドは、さらにスピード感があります。
特徴は、トレンド成分や新しい使用カテゴリーをすぐ商品化し、シリーズとして広げることです。
たとえばVT COSMETICSでは、PDRNカテゴリーだけでも、クレンザー、アイパッチ、アイクリーム、トナーパッド、クリーム、デイリーマスクなど複数のアイテムが展開されています。
これはとても韓国コスメらしい動きです。
ひとつの成分や美容トレンドが出てきたときに、まず美容液だけを出すのではなく、トナー、パッド、クリーム、マスク、アイケアなど、複数アイテムへ一気に展開していく。
韓国コスメは、「CICA」「PDRN」「グルタチオン」「レチナール」「ペプチド」「リードルショット」「水光肌」のように、成分や仕上がりのトレンドを商品化するのが早いです。
この型の強さは、今っぽさをブランドの鮮度に変えられることです。
ただし、スピードが速いぶん、商品の入れ替わりも早くなりやすい。長く残る名品を育てるというより、今の美容トピックに対して、複数の商品で面を取りにいくイメージです。
デパコスが「研究の積み上げ」で信頼を作るなら、韓国コスメは「今の悩みへの回答の速さ」で信頼を作る。
ここが大きな違いです。
④ SNS・ネット系ブランド:商品そのものより、“訴求”や“見せ方”を変えて売り続ける
SNS・ネット系ブランドは、また別の戦い方をします。
D2CやSNS発のスキンケアブランドでは、商品数を大量に増やすより、ひとつの商品に対して、訴求やターゲットの切り口を変えながら売ることがあります。
たとえば同じ美容液でも、
毛穴悩み向け
乾燥くすみ向け
ハリ不足向け
メイクノリ向け
30代向け
40代向け
忙しいママ向け
美容医療に頼る前のケア向け
というように、広告やLPの切り口を変える。
中身を変えるのではなく、誰に、どの悩みで、どのタイミングで出会わせるかを変えるのです。
これは、百貨店やドラッグストアの棚ではなく、広告・SNS・LP・記事LPで売るブランドならではの考え方です。
店頭では、商品そのものが一瞬で伝わる必要があります。でもネットでは、記事LPや動画LPを使って、商品の価値を長く説明できます。
そのため、SNS・ネット系ブランドでは、新商品を増やすよりも、ひとつの商品の売り方を複数作ることが重要になります。
同じ商品でも、
どんな悩みの人に見せるか。
どんなビフォーを切り取るか。
どんな未来を約束するか。
どんな口コミを前面に出すか。
どの季節に、どの悩みと結びつけるか。
ここで商品の寿命が変わります。
化粧品ブランドの商品戦略は、こう整理できる
化粧品ブランドの商品戦略は、ざっくり次のように整理できます。
デパコスは、名品を“資産”として育てる
デパコスは、商品にブランドの歴史や研究、世界観を背負わせます。
ランコムのジェニフィックのように、ひとつの商品をリニューアルしながら、「このブランドといえばこれ」という記憶を作る。
この戦い方では、商品は単なる売上商品ではなく、ブランドの顔になります。
だからこそ、変え方にも慎重さが必要です。
ドラッグストア系は、悩みと成分で“生活の中に入り込む”
ドラッグストア系ブランドは、生活者の肌悩みに合わせて、手に取りやすい価格で商品を広げます。
成分名や悩み名がわかりやすく、「これなら自分に合いそう」と思いやすい。
日常で使えること。継続できること。悩みに対してわかりやすいこと。ここが強さです。
ロフト・PLAZA系は、“発見される新しさ”で広げる
ロフト・PLAZA系は、売場で見つけた瞬間のワクワクが大切です。
商品名、パッケージ、使用感、カテゴリーの新しさ。「これ試してみたい」と思わせる力。
この戦い方では、商品は“売場のコンテンツ”になります。
韓国コスメ系は、トレンドを“シリーズ化”する
韓国コスメ系は、トレンド成分や新しい美容カテゴリーを見つけるのが早く、それを複数アイテムに展開するのが上手い。
美容液だけでなく、トナー、パッド、マスク、クリーム、アイケアまで一気に広げる。
この戦い方では、商品は“今っぽい美容トピックへの回答”になります。
SNS・ネット系は、“訴求”を育てる
SNS・ネット系ブランドは、商品数を増やすより、ひとつの商品に対して複数の売り方を作ることが多いです。
同じ商品でも、
誰に向けるか。
どの悩みで見せるか。
どんな言葉で伝えるか。
どの季節に売るか。
ここを変えることで、商品の寿命を伸ばします。
この戦い方では、商品は“広告やLPによって意味づけされるもの”になります。
まとめ
商品ラインアップを見ると、ブランドの戦略が見えてきます。
ひとつの商品を長く育てているのか。
シリーズで広げているのか。
限定品でニュースを作っているのか。
成分トレンドに合わせて商品を増やしているのか。
同じ商品を、訴求だけ変えて売っているのか。
ここを見ると、ブランドの戦略が見えてくるのです。

