化粧品ブランドのLPや商品ページを見ていると、よく目にするストーリーがあります。
たとえば、「娘のアトピーに悩んだことをきっかけに開発しました」「自分自身が敏感肌で、なかなか合う化粧品が見つからなかった経験から作りました」「年齢とともに肌の変化を感じ、自分と同じように悩む女性のために作りました」「本当に良い成分だけを使いたくて、この商品を作りました」といったものです。
このようなブランドストーリーは、化粧品においてとても大切な要素です。
商品が生まれた背景には、必ず何かしらの原体験があります。なぜこの商品を作ろうと思ったのか。どんな人に届けたいのか。どんな悩みを解決したかったのか。そこには、開発者やブランドの想いがあります。
ただ、広告やLPの中で見たときに、そのストーリーがそのまま購入の決め手になっているかというと、必ずしもそうではないように感じます。
多くの場合、ブランドストーリーはLPの後半に置かれています。
商品の特徴や成分、実績、口コミ、価格訴求などを見せたあとに、「実はこの商品は、こんな想いから生まれました」という形で補足的に語られることが多い。
もちろん、それを読んだ人は「そうなんですね」「大変だったんですね」「こだわっているんですね」とは思います。
けれど、そのストーリーを読んだからといって、すぐに「だから買いたい」と行動につながるかというと、そこまで強く働いていないケースも多いのではないでしょうか。
では、ブランドストーリーは広告において弱いのでしょうか?
むしろ、ブランドストーリーは使い方次第で、広告全体を貫く強い言葉になります。LPの後半に補足として置かれるだけではなく、ファーストビュー、見出し、広告バナー、商品コンセプト、CTA前の背中押しまで、何度も使える“言葉の資産”になります。
ただし、そのためには、ブランドストーリーをそのまま長く語るのではなく、一度深く掘り下げる必要があります。そして、掘り下げたものをそのまま全部出すのではなく、その中から本当に大切な感情や本質を見つけ出し、そのブランドにしか言えない言葉に変換する必要があります。
ここに、商品への想いやストーリーが「伝わるブランド」と「伝わりきらないブランド」の違いがあるのだと思います。
ブランドストーリーは、そのままだと“良い話”で終わってしまう
たとえば、敏感肌向けの化粧品ブランドがあったとします。
ブランドストーリーとしては、「肌が弱く、市販の化粧品がなかなか合わなかった経験から、本当に信じられる成分だけで作りました」というものだったとします。
これは、背景としてはとてもわかりやすいです。
肌が弱い人のための商品であること。成分にこだわっていること。開発者自身に悩みがあったこと。そうしたことは伝わります。
しかし、「肌が弱かった」「化粧品が合わなかった」「だから作った」という流れはわかる。けれど、読者の心の奥にある感情までは、まだ動かしきれていません。
なぜなら、同じようなストーリーは他のブランドにもあるからです。肌が弱かった経験から作ったブランド。子どもの肌悩みをきっかけに作ったブランド。良い成分だけを使いたくて作ったブランド。こうしたストーリーは、化粧品業界では決して珍しくありません。
つまり、ブランド側にとっては唯一無二の原体験でも、読者から見ると「よくある良い話」に見えてしまう可能性があるのです。
必要なのは、ストーリーをもう一段深く掘ること
では、どうすればブランドストーリーは強くなるのでしょうか。
必要なのは、その出来事をもう一段深く掘ることです。
「肌が弱くて、合う化粧品がなかった」という出来事を、そこからさらに、そのときどんな状況だったのか、どんな気持ちだったのか、何に傷つき、何を失い、何を求めていたのかまで見ていきます。
たとえば、肌が弱い人が化粧品を探している場面を考えてみます。
SNSで「敏感肌でも使えた」と紹介されていた化粧水を見つける。口コミを読み込む。成分も確認する。今度こそ大丈夫かもしれないと思って購入する。
でも、使ってみたら頬がピリピリする。翌朝、肌が赤くなっている。乾燥して、カサカサする。
また合わなかった。
また使い切れない化粧品が増えた。
またお金を無駄にした気がする。
また時間をかけて調べたのに、結局ダメだった。
最初は「この商品が合わなかっただけ」と思っていたかもしれません。けれど、それが何度も続くと、だんだん感情は変わっていきます。
「私の肌って、そんなにダメなのかな」「みんなは使えているのに、私は使えない」「普通にスキンケアを楽しむことすらできない」「また荒れるくらいなら、新しいものを試したくない」「きれいになりたくて選んでいるのに、化粧品を選ぶたびに自分の肌が嫌いになっていく」
この時の悩みは、単に「肌に合う化粧品がないこと」ではありません。
本当に苦しいのは、化粧品選びに失敗するたびに、自分の肌そのものを責めてしまうことかもしれません。美容を楽しみたいのに、新しいものを試すこと自体が怖くなってしまったことかもしれません。
ここまで見えて初めて、そのブランドが本当に向き合うべき感情が見えてきます。
掘り下げたストーリーをそのまま全部出すと読まれない
大切なのは、掘り下げたストーリーをそのまま全部広告に載せればいいわけではない、ということです。
感情や状況をとことん掘り下げると、当然ながら話は長くなります。
「肌が弱くて、化粧品を探して、SNSで調べて、口コミを見て、良さそうだと思って買って、使ってみたら合わなくて、またお金も時間も無駄にして、自信をなくして……」
このように丁寧に書けば書くほど、文章は長くなります。
もちろん、記事LPや読み物コンテンツであれば、ある程度ストーリーとして読ませることはできます。けれど、広告のファーストビューや見出し、バナー、商品ページのメインコピーでそのまま使うには長すぎます。
長すぎると読まれません。伝えたいことが多すぎると、逆に何も残りません。
掘り下げたものを俯瞰したときに、本当に大切な感情が見えてくる
持っているストーリーを、一度すべて出し切ります。そして次に、その掘り下げたものを俯瞰して見ます。
この中で、一番大切な感情は何なのか。
このブランドが向き合うべき痛みは何なのか。
この商品を使うことで、読者は何を取り戻すのか。
ここを見つけることが、コピーを作るうえでとても重要です。
先ほどの敏感肌の例であれば、たくさんの状況や感情が出てきました。
化粧品が合わない。
お金を無駄にした。
また荒れた。
SNSで良いと言われていたものもダメだった。
自信をなくした。
新しいものを試すのが怖くなった。
自分の肌を責めるようになった。
この中で、どの感情を中心に据えるのかによって、ブランドの言葉は変わります。
もし中心に置く感情が「自分の肌を責めてしまうこと」なら、「もう、化粧品選びで自分の肌を責めなくていい」
もし中心に置く感情が「新しい化粧品を試す不安」なら、「荒れない化粧品選びから卒業」
もし中心に置く感情が「美容を楽しめなくなったこと」なら、「敏感な肌にも、美容を楽しむ自由を」など。
このように、同じブランドストーリーでも、どの感情を本質として切り取るかによって、出てくる言葉は変わります。
そして、この言葉こそが、LPや広告全体で何度も使えるパワーワードになります。
パワーワードは、感情を掘り下げた先にある“圧縮された言葉”
強いコピーやブランドメッセージは、深く掘った感情を、短く圧縮することで生まれます。
つまり、パワーワードとは、深掘りした感情の圧縮言語です。
「敏感肌のために作りました」という言葉は、商品の説明です。一方で、「もう、化粧品選びで自分の肌を責めなくていい」という言葉は、読者の感情を代弁しています。
前者は、ブランド側が言いたいことです。後者は、読者の中にあるけれど、まだ言葉になっていなかった感情です。
広告で強いのは、後者です。人は自分の感情を言い当てられたときに、「これは私のことだ」と感じるからです。
ブランドストーリーは、LP後半の“開発秘話”で終わらせるにはもったいない
ブランドストーリーというと、どうしてもLPの後半に入れる開発秘話のような扱いになりがちです。
もちろん、後半で丁寧に語ることにも意味はあります。
けれど、本当にもったいないのは、そのストーリーから生まれた本質的な言葉を、LP全体で使えていないことです。
ブランドストーリーを深掘りし、そこからパワーワードを作ることができると、その言葉は広告全体の軸になります。
たとえば、「もう、化粧品選びで自分の肌を責めなくていい」という言葉がブランドの核として見つかった場合、LP全体の流れは変わります。
ファーストビューでは、その言葉を大きく打ち出すことができます。
悩み訴求では、「良さそうだと思って試したのに、また肌に合わなかった。そんな経験を繰り返すうちに、“私の肌が悪いのかな”と思っていませんか?」と展開できます。
商品説明では、「肌に合わない不安まで考えて、成分をひとつひとつ選びました」とつなげられます。
CTA前では、「次に選ぶスキンケアが、自分の肌を責めるきっかけではなく、安心して肌と向き合うきっかけになりますように」と背中を押すことができます。
このように、ブランドストーリーは後半で一度語って終わりではありません。
本質まで掘り下げて言葉にできれば、広告全体を貫く軸になります。
伝わるブランドは、ストーリーを“言葉の資産”に変えている
商品への想いやストーリーが伝わるブランドと、伝わりきらないブランドの違いは、ストーリーの有無ではありません。
多くのブランドには、すでにストーリーがあります。問題は、そのストーリーをどう使っているかです。
伝わりきらないブランドは、ストーリーをそのまま説明します。でも、それだけだと、読者にとっては“良い話”で終わってしまう可能性があります。
一方で、伝わるブランドは、そのストーリーを一度深く掘り下げます。その出来事の中に、どんな状況があったのか。どんな感情があったのか。
そこまで見たうえで、短く、強く、そのブランドにしか言えない言葉に変えています。
深く掘ったブランドストーリーから生まれた、感情の圧縮です。
だから、LPの後半に一度出して終わりではなく、広告全体で使うことができます。
ブランドの世界観にもなり、商品コンセプトにもなり、見出しにもなり、購入前の不安をほどく言葉にもなります。

