ここ数年で、生活者の美容に対する向き合い方が大きく変わってきていると感じます。
基礎化粧品の買い方そのものが変わってきているということです。
以前は、クレンジングはこれ、化粧水はこれ、美容液はこれ、クリームはこれ、というように、1つのアイテムカテゴリーにつき1商品を持ち、使い切ったらまた買う、という買い方が一般的でした。
しかし今、生活者の中では、美容液を1本だけ持つのではなく、ビタミンC、レチノール、ナイアシンアミド、保湿系、鎮静系など、目的別に複数持つ人が増えています。
シートマスクも、毎日使うもの、乾燥した日に使うもの、毛穴が気になる日に使うもの、肌が揺らいだ日に使うものを分けている。
クリームも、朝用、夜用、軽め、重め、攻めのケア用、守りのケア用といったように、肌状態や翌日の予定に合わせて使い分ける。
つまり、基礎化粧品は“固定のルーティン”から、“その日の肌状態に合わせて選ぶもの”へ変わってきているのです。
国内化粧品市場の約半分はスキンケア
2024年度の国内化粧品市場は、メーカー出荷金額ベースで2兆5,800億円。
その中で最も大きいカテゴリーがスキンケア市場で、1兆1,950億円です。構成比は46.3%。
つまり、国内化粧品市場の約半分はスキンケアが占めています。
メイクアップ市場は5,070億円、ヘアケア市場は5,030億円。
これらと比べても、スキンケアは国内化粧品市場の中で非常に大きなカテゴリーです。
さらに、2025年のスキンケア化粧品市場は1兆4,624億円、前年比3.5%増と見込まれています。
市場拡大の背景として、「スペシャルケアアイテムの日常使い」「肌悩みに合わせた複数商品の使い分け」が挙げられています。
生活者が肌悩みや肌状態に合わせて、複数の商品を持ち、使い分ける方向へ進んでいる。
その変化が、市場の中にも表れ始めているのです。
大手が強い。でも、大手だけの市場ではない
国内化粧品市場は、大手メーカーが強い市場です。
2019年時点のメーカーシェアを見ると、資生堂グループが13.2%、花王グループが12.1%、コーセーグループが7.3%。
上位5社で約4割、上位10社で約5割を占めています。
一方で、残りの約5割は多数のメーカーやブランドで構成されています。
つまり、化粧品市場は「大手が強い市場」である一方で、大手だけで完結している市場ではないということです。
特にスキンケアは、生活者がブランドを横断して選びやすいカテゴリーです。
クレンジングはこのブランド。
化粧水はこのブランド。
ビタミンC美容液はこのブランド。
レチノールはこのブランド。
シートマスクはQoo10で買う。
クリームだけはデパコスを使う。
このように、今の生活者はひとつのブランドだけでスキンケアを完結させるとは限りません。
自分の肌悩み、成分、価格、口コミ、使いやすさ、SNSでの評判を見ながら、ブランドを横断して“自分なりのスキンケア棚”を作っています。
だからこそ、生活者のスキンケア棚の中で、どの役割を担う商品なのかを明確にする必要があります。
韓国コスメは市場全体ではまだ小さい。でも買い方を変えた存在
この変化を考える上で、韓国コスメの存在も外せません。
韓国コスメは、国内化粧品市場全体で見ると、2023年時点の金額シェアは2.6%です。
つまり、日本の化粧品市場全体を韓国コスメが大きく占めているわけではありません。
ただし、2019年時点では0.4%だったものが、2023年には2.6%まで伸びています。市場全体で見ればまだ小さい。けれど、伸び率で見ると非常に大きい。
そして何より、韓国コスメは数字以上に、生活者の買い方や情報収集の仕方に影響を与えているように見えます。
特にスキンケア領域では、Qoo10やメガ割の存在が大きいです。
高価格帯の美容液を1本だけ買うのではなく、比較的手に取りやすい価格帯で、ビタミンC、レチノール、鎮静系、保湿系、シートマスクなどを複数揃える。
この買い方が、基礎化粧品の「1アイテム複数持ち」を後押ししているように感じます。
美容偏差値が上がっている
ここ数年で、生活者の美容に対する知識量はかなり上がっていると感じます。
以前であれば、美容の仕事をしている人や美容部員、エステティシャン、美容家のような人たちが使っていた言葉を、今は一般の生活者も普通に使うようになっています。
「これは毛穴に良い」「これはハリ向け」「これは攻めのケアだから毎日は使わない」「これは肌が揺らいだ日に使う」というように、自分なりに理解し、使い分けている人が増えています。
もちろん、すべての人がそうではありません。
今も、化粧品は何を使っても同じだと感じている人もいます。効果がよくわからない人もいます。情報が多すぎて、何を選べばいいかわからない人もいます。
しかし一方で、美容に興味を持つ人の中では、情報量も、比較力も、自分の肌を観察する力も上がっている。
つまり、生活者の中で美容偏差値の差が広がっているのです。
美容に興味を持ち、情報を取りに行き、実際に試し、自分の肌で検証している人は、どんどん詳しくなっていく。
一方で、情報が多すぎて選べない人、何を信じればいいかわからない人、化粧品の変化を感じられない人は、ますます置いていかれる感覚を持ちやすくなる。
この二極化は、これからの化粧品市場を見る上で重要なポイントだと思います。
「1アイテム複数持ち」の人は、何を考えているのか
では、1アイテムで複数の商品を持っている人は、何を考えているのでしょうか。
多くの場合、頭の中には明確な役割分担があります。
たとえば、
今日は乾燥しているから、保湿系の美容液。
昨日寝不足だったから、今日は鎮静系。
毛穴が気になるから、クレンジングはこれ。
明日は外出するから、朝は重すぎないクリーム。
肌がごわついているから、今日は角質ケア。
最近ハリが気になるから、夜はレチノール系。
でも肌が揺らいでいる日は攻めずに、守りのケアにする。
このように、肌状態、前日の生活、翌日の予定、今の悩み、使う成分の強さを見ながら、その日のケアを選んでいます。
これは、昔の「化粧水を塗って、乳液を塗って終わり」という感覚とはかなり違います。
自分の肌を観察して、必要な成分を考えて、商品ごとの役割を理解して、その日の肌に合わせて組み合わせています。
なぜ、そういう買い方に変わってきたのか
この変化には、いくつかの理由があります。
ひとつは、SNSによって美容情報に触れる量が圧倒的に増えたことです。
Instagram、TikTok、YouTube、LIPS、@cosme、Qoo10のレビュー。
生活者は、ブランド公式の情報だけではなく、インフルエンサー、友人、一般ユーザー、口コミ、比較投稿、検証投稿から情報を得ています。
昔は、美容情報といえば、雑誌、店頭、美容部員、テレビ、友人からの口コミが中心でした。
情報の入口が限られていたため、多くの人が似たような情報に触れていました。
しかし今は違います。
毛穴に悩んでいる人には、毛穴関連の投稿がどんどん出てくる。
レチノールを調べた人には、レチノール関連の商品や比較投稿が出てくる。
Qoo10で韓国コスメを見始めると、次のメガ割で何を買うか考えるようになる。
情報に触れる量が増え、比較する機会が増え、試すハードルも下がったことで、生活者の美容知識は自然と上がっていきます。
もうひとつは、美容へのモチベーションが生まれる場面が増えたことです。
同世代で肌がきれいな人を見る。
SNSで年齢が近いのにきれいにしている人を見る。
美容に詳しい友人からおすすめを聞く。
推しに会う予定がある。
こうした日常の中で、「私ももう少しちゃんとケアしたい」「きれいになりたい」「この肌の状態を変えたい」と思うきっかけが増えています。
特に、同世代で肌がきれいな人を見た時の影響は大きいと感じます。
年齢が大きく違う人や、もともと特別な美容の世界にいる人ではなく、自分と同じくらいの年齢で、同じように生活しているはずの人の肌がきれいだった時。
そうした接点が増えたことで、美容に対する意識は少しずつ高まっているのだと思います。
これからの化粧品メーカーに必要な考え方
この市場変化を前提にすると、化粧品メーカーは「この商品をどう売るか」だけでなく、生活者のスキンケア棚の中で、どの役割を取るのかを考える必要があります。
これからの生活者は、ひとつのブランドだけでスキンケアを完結させるとは限りません。
ブランドを横断して、自分なりのベストな組み合わせを作っていきます。
だからこそ、ブランド側は「この商品は、どんな肌状態のときに使うものなのか」「他のアイテムとどう違うのか」「スキンケア棚の中で、どの役割を担うのか」を明確に伝える必要があります。
低〜中価格帯ブランドの場合
低〜中価格帯のブランドであれば、“複数持ちの中の1本”として選ばれる設計が重要です。
たとえば、
毛穴が気になる日のクレンジング。
肌が揺らいだ日の鎮静美容液。
朝に使いやすいビタミンC美容液。
毎日使えるデイリーマスク。
レチノール初心者が始めやすい夜用クリーム。
このように、生活者のスキンケア棚の中での役割を明確にする。
「なんとなく良さそう」ではなく、「この肌状態の時に使うもの」として認識してもらうことが大切です。
高価格帯ブランドの場合
高価格帯のブランドであれば、単に「高機能です」だけでは足りません。
今の生活者は、韓国コスメやプチプラ、ドラッグストアコスメで、ある程度のアイテムを揃えることができます。
その中で高価格帯ブランドが選ばれるには、複数持ちの中でも、ここだけは投資したい1本になる必要があります。
高価格帯ブランドは、価格の高さを隠すのではなく、なぜこの1本に投資する価値があるのか。他の手持ちアイテムの中で、どんな役割を担うのか。そこまで伝える必要があります。
D2C・通販系ブランドの場合
D2Cや通販系ブランドの場合は、単品訴求だけではなく、手持ちアイテムとの組み合わせ方まで提案することが重要です。
今の生活者は、すでに何かしらの化粧品を持っています。
化粧水も、美容液も、パックも、クリームも、何かしら使っている。その前提で、どこに入り込む商品なのかを伝える必要があります。
たとえば、
「今のスキンケアにプラスするなら、夜の最後に」
「ビタミンC美容液を使っている方は、朝ではなく夜の保湿ケアとして」
「攻めのケアをお休みしたい日の守りケアに」
「毛穴汚れが気になる日のクレンジングとして」
というように、生活者のリアルなスキンケア導線に合わせて提案する。
これからは、商品単体の魅力だけでなく、生活者がすでに持っている化粧品の中で、どう使われるかまで設計することが大切です。
新規ブランドの場合
新規ブランドの場合、最初からフルラインで全部使ってもらうのは簡単ではありません。
むしろ、まずは生活者の棚の中の“1つの役割”を取ることを考えた方が現実的です。
毛穴が気になる日のクレンジング。
肌が揺らいだ日の美容液。
朝のメイク前に使いやすい保湿クリーム。
週2回使うスペシャルケア。
メガ割でまとめ買いしたくなるデイリーマスク。
このように、使う場面が明確な商品は、生活者の中に入り込みやすくなります。
「全部うちのブランドで揃えてください」ではなく、「まずはこの悩み、このタイミング、この役割で使ってください」という入り方が重要です。
まとめ
今、スキンケア市場では、スペシャルケアアイテムの日常使いや、肌悩みに合わせた複数商品の使い分けが広がっています。
基礎化粧品市場では、「良い商品を作れば売れる」だけではなく、生活者のスキンケア棚の中で、どんな役割を担うのかが重要になります。
1アイテム1商品の時代から、1アイテム複数商品の時代へ。
固定のルーティンから、肌状態に合わせて選ぶスキンケアへ。
生活者の美容偏差値が上がっている今、化粧品ブランドに求められるのは、商品の魅力を伝えることだけではありません。
その商品が、どんな肌状態のときに、どんな目的で、どんなふうに使われるべきなのか。
生活者が自分の肌を理解し、商品を使いこなし、変化に気づけるところまで設計すること。
そこに、これからの化粧品ブランドの差が出てくるのではないでしょうか。

