これまで、化粧品の購入行動を考えるとき、多くのブランドが重視してきたのはSNSでした。
実際、SNSは今も化粧品選びに大きな影響を与えています。
2025年のコスメ購買意欲調査では、Z世代女性の54.9%が「SNSで話題になったとき」にコスメを購入すると回答。さらに、SNSがコスメの購買意欲に「とても影響している」「やや影響している」と答えた人は、Z世代で85.9%、ミレニアル世代女性でも79.3%にのぼりました。
SNSが化粧品購入の入口であることは、今も変わりません。
ただ、最近のインタビューを通して見えてきたのは、その“入口”が少しずつ変わり始めているということです。
それが、AIです。
ChatGPTやGeminiなどの生成AIは、少し前までは「仕事で使うもの」「詳しい人が使うもの」という印象が強かったかもしれません。
しかし最近では、SNSで写真をアニメ風に加工する、肌写真をもとにメイク診断をしてもらう、冷蔵庫の中身から献立を考えてもらう、旅行プランを組んでもらうなど、かなり日常的な使われ方が広がっています。
2026年2月のICT総研の調査では、国内ネットユーザーの54.7%が直近1年以内に生成AIサービスを利用したとされています。すでにAIは、一部のビジネスパーソンだけのものではなく、日常の相談相手になりつつあります。
そして、その流れは化粧品選びにも入り始めています。
AIで化粧品を選ぶ人は、何をしているのか
今回インタビューした40代女性・Aさんは、もともと美容への関心が高く、InstagramやYouTubeショート、Qoo10のメガ割ランキングなどをよく参考にしている方でした。
美容医療やエステにも関心があり、スキンケアも「シワ」「たるみ」「乾燥」「敏感肌」など、自分の悩みに合わせて選んでいます。
これまでの流れであれば、SNSで気になる商品を見る、商品名で検索する、口コミやレビューを見る、安いところを探して買う、という購買行動になりやすいタイプです。
しかし、Aさんは最近、AIも使っていました。
たとえば、韓国・釜山で美容クリニックを探すとき。
インスタグラマーの投稿やGoogle検索だけではなく、AIに「釜山でおすすめのクリニックを3つ出して」と聞いたそうです。
その結果、全国にチェーン展開しているクリニックや、日本語対応があるクリニックを候補として見つけ、「個人院より安心できそう」と判断して予約につながっていました。
また、化粧品でもAIを使っていました。
「今、○○(商品名)のボディクリームを使っているけれど、これより効果がありそうなものはある?」
「このボディクリームとこのボディクリーム、どっちの方がより白くなりそう?」
「敏感肌で乾燥肌なんだけど、この条件ならどれが合いそう?」
このように、自分の肌状態、今使っている商品、予算、比較したい商品をAIに伝えたうえで、候補を絞ってもらっていたのです。
ここが、従来のSNS検索との大きな違いです。
SNSは情報量が多く、リアルな口コミや流行を知るには強い。
一方で、情報が多すぎるため、自分に合うかどうかを判断するには時間がかかります。
「これがバズっている」「この成分がいいらしい」「この人が紹介していた」そうした情報はたくさん見つかりますが、自分の肌質、今の悩み、予算、手持ちのアイテムとの相性まで含めて、すぐに整理してくれるわけではありません。
その点、AIは違います。
・自分の肌状態を伝えられる。
・今使っている商品を伝えられる。
・候補商品を比較してもらえる。
・予算で絞ってもらえる。
・「この成分は自分に必要か?」まで聞ける。
・さらに、褒めてくれたり、背中を押してくれたりもする。
特に、「自分のモチベーションをあげてくれる」「褒めてくれる」という部分は、とてもキーになります。
インタビューでもAさんは、肌のためにトマトジュースやビタミンC、トラネキサム酸を取り入れたことをAIに伝えると、「すごい」「すばらしい!」「頑張っている!」と褒めてくれ、モチベーションを上げてくれると、嬉しそうに話されていました。
AIは、商品を効率よく探すための検索ツールであると同時に、「このケアでいいんだ」と自分の選択を肯定してくれる、美容の伴走者のような役割も持ち始めています。
これからは「SNSで見つける」だけでなく「AIに聞いて選ぶ」人が増える
海外では、すでにAIショッピングアシスタントを使った美容商品の発見も始まっています。
Glossyでは、NielsenIQとUlta Beautyの2026年6月データとして、10代男性の26%がAIショッピングアシスタントを使って美容商品を発見していると報じられています。
これは若年層の事例ではありますが、重要なのは「美容商品の発見経路にAIが入り始めている」という点です。
これまでブランド側は、SNSでどう見つけてもらうか、インフルエンサーにどう紹介してもらうか、広告でどう興味を持ってもらうかを考えてきました。
もちろん、それは今後も重要です。
ただ、これからはそれに加えて、「AIに相談されたときに、自社商品が候補に入るか」「AIが説明しやすい情報がWeb上にあるか」「比較されたときに、選ばれる理由が明確になっているか」という視点が必要になります。
AIはWeb上の情報、公式サイトの商品説明、口コミ、成分情報、EC情報などをもとに回答します。
つまり、これからの化粧品ブランドは、人に向けた広告やLPだけでなく、AIにも理解されやすい情報設計が必要になっていきます。
AIに選ばれるために、ブランドができる5つのこと
では、化粧品ブランドや販売側は何をすればいいのでしょうか。
大きくは、以下の5つです。
1. 公式サイトに「誰に向いている商品か」を明確に書く
AIは、商品名だけでなく、商品説明の文脈を読み取ります。
そのため、「うるおいを与える」「ハリを与える」だけではなく、どんな悩みの人に向いているのか、どんな使用感なのか、どんな人に選ばれているのかを具体的に書くことが大切です。
たとえば、
・乾燥しやすいけれど重いクリームが苦手な方
・年齢サインは気になるけれど、攻めすぎたケアに不安がある方
・香りが強い化粧品が苦手な方
・プチプラから少しステップアップしたい方
このように、AIがユーザーの悩みと商品を結びつけやすい表現を増やしておくことが重要です。
2. 比較される前提で、違いを言語化する
AI検索では、「AとBはどう違う?」という聞かれ方が増えます。
そのときに必要なのは、自社商品の特徴が比較しやすい形で整理されていることです。
たとえば、
・保湿重視なのか
・ハリ感重視なのか
・敏感肌向けなのか
・香りがあるのかないのか
・朝向きか夜向きか
・軽い使用感か、こっくりした使用感か
・どの年代に選ばれているのか
こうした情報が公式サイトやLP上に整理されていると、AIが回答に組み込みやすくなります。
3. 口コミで語られている言葉を拾う
AIは公式情報だけでなく、口コミやレビューの文脈も参照します。
そのため、実際の購入者がどんな言葉で商品を評価しているのかを把握することも重要です。
たとえば、ブランド側は「高保湿」と言っていても、ユーザーは「朝まで乾かなかった」「メイク前に使っても重くない」「肌がゆらいでいる時でも使いやすい」と表現しているかもしれません。
この“生活者の言葉”をLPやFAQ、商品説明に反映させることで、AIにも人にも伝わりやすくなります。
4. FAQを充実させる
AIに相談する人は、購入前に細かい不安を持っています。
「敏感肌でも使える?」
「朝使ってもいい?」
「今使っている化粧水と併用できる?」
「どれくらいで使い切る?」
「ベタつく?」
「香りは強い?」
こうした質問に対する回答が公式サイト上にあると、AIが情報を拾いやすくなります。
FAQは、これからのAI時代における“接客コンテンツ”です。
5. SNS・LP・ECの商品説明をバラバラにしない
SNSでは「バズる言葉」、LPでは「売る言葉」、公式サイトでは「説明する言葉」、ECでは「検索される言葉」と、媒体ごとに表現がバラバラになっているブランドも少なくありません。
しかしAIは、複数の情報を横断して商品を理解します。
そのため、どの媒体でも一貫して、
・誰のための商品か
・どんな悩みに向いているか
・他商品との違いは何か
・どんな使用感か
・どんな価値があるのか
が伝わるように整えておくことが大切です。
化粧品購入の入口は、SNSだけではなくなっていく
今回のインタビューで印象的だったのは、AIが単なる検索ツールではなく、“相談相手”として使われていたことです。
SNSで情報を見る。口コミを見る。Googleで検索する。楽天やQoo10で価格を見る。そうした行動は今後も続きます。
ただ、その前段階に「まずAIに聞いてみる」が入ってくる。
これは、化粧品販売に関わる人にとって大きな変化です。
消費者は、ただ流行っている商品を知りたいだけではありません。“自分ごと化された答え”を求めています。
SNSは、化粧品との出会いを作る場所。
口コミは、信頼を補強する場所。
公式サイトやLPは、納得してもらう場所。
そしてAIは、それらを横断して「この人に合いそうか」を整理する場所になっていく。
これからの化粧品マーケティングでは、SNSで見つけてもらうことに加えて、AIに聞かれたときに選ばれる情報設計が必要になります。

