ブランドの入口商品が育つ条件
化粧品ブランドには、「このブランドといえば、これ」と思い浮かぶ商品があります。
ランコムなら美容液。コスメデコルテならリポソーム。ラ・ロッシュ・ポゼならUV。ラ・メールならクリーム。オバジならビタミンC美容液。
こうした商品は、ブランドを象徴する「ヒーロー商品」であると同時に、生活者がそのブランドを知り、初めて購入する「入口商品」になっていることがあります。
では、その商品は最初から戦略的に入口としてつくられたのでしょうか。
ブランドが得意とする研究や技術を生かした結果、その商品が代表商品になったのか。発売後に生活者から高く評価され、結果としてブランドの顔になったのか。それとも、ブランド側が広告や販促を集中させ、入口商品として育てていったのか。
今回取り上げたいブランドは、アテニア、ファンケル、オルビス。
いずれも幅広いスキンケア商品を展開しているブランドですが、生活者がブランドを知る入口には、クレンジングが大きく関わっています。
今回は、3ブランドのクレンジングから、化粧品ブランドの「入口商品」が育つ条件を考えます。
調べる前のアテニアは「クレンジングのブランド」だった
アテニアについて詳しく調べる前、持っていた印象は「クレンジングが有名なブランド」でした。
ところが公式サイトを見ると、アテニアが掲げているのは、単にメイクをきれいに落とすことではありません。
1989年の創業以来、「一流ブランドの品質を、手に取りやすい価格で届ける」という考えを持ち、研究・開発から販売までを一貫して行ってきたブランドです。
さらに、五感に響く香りやテクスチャーを重視する「官能品質」や、肌と時間の関係に着目した「時計美容」など、独自のエイジングケア思想もあります。
しかし、それらを知る前から、クレンジングの存在は知っていました。
これは、ブランドの思想より先に、商品が生活者との接点をつくっているということです。
アテニアの「スキンクリア クレンズ オイル」は、2016年に、年齢を重ねるにつれて感じやすくなる肌のくすみ悩みに着目して誕生しました。現在は累計販売数2,800万本を突破し、@cosmeベストコスメアワードでは2024年、2025年と2年連続で総合大賞を受賞しています。
ブランドが公式に「これは入口商品です」と定義しているかは別として、実際には多くの生活者が、クレンジングをきっかけにアテニアを知っているのではないでしょうか。
「ヒーロー商品」と「入口商品」は同じとは限らない
ここで整理しておきたいのが、ブランドの代表商品と入口商品の違いです。
ブランドを代表する商品は、一般的に「ヒーロー商品」や「アイコン商品」と呼ばれます。
一方、生活者が初めて購入しやすく、新規顧客との接点をつくる商品は、「エントリー商品」や「顧客獲得商品」に近い役割を持ちます。
この2つは、必ずしも同じではありません。
たとえば、ラ・メールのクリームはブランドを象徴するアイコン商品ですが、価格を考えると、すべての人が気軽に試せる入口商品とは言い切れません。
反対に、低価格のミニサイズや洗顔料は購入の入口にはなっても、そのブランドらしさを最も象徴する商品ではないことがあります。
つまり、ブランドにとって理想的なのは、試しやすく、違いが分かりやすく、なおかつブランドの思想まで伝えられる商品。
アテニア、ファンケル、オルビスのクレンジングは、この条件を満たしやすい商品だと考えられます。
なぜクレンジングは、ブランドの入口になりやすいのか
1.初回から「違い」を判断しやすい
美容液や化粧水は、数週間使わなければ評価しにくいことがあります。
一方、クレンジングは、初めて使ったその日から、
- メイクとなじむ速さ
- 摩擦感の少なさ
- メイクの落ちやすさ
- すすぎやすさ
- 洗い上がり
- 香り
- オイルやジェルの厚み
などを判断できます。
つまり、商品価値を短時間で体験してもらいやすいのです。
特に通販を中心とするブランドでは、店頭の美容部員が細かく説明しなくても、生活者自身が「今まで使っていたものと違う」と判断できることが重要です。
広告でいくら商品の良さを説明しても、使用時に違いが伝わらなければ、次の購入にはつながりません。
クレンジングは、その違いを一度の使用でも伝えやすい商品です。
2.毎日使うため、習慣の中に入りやすい
クレンジングは、メイクをする人にとって使用頻度の高い消耗品です。
気に入れば、
使う
↓
なくなる
↓
買い足す
↓
ブランドサイトや店舗を再訪する
という流れが自然に生まれます。
高機能美容液のように、「肌悩みが強くなったときだけ購入する商品」ではなく、毎日の生活の中に入り込める。
入口商品に必要なのは、最初に売れることだけではありません。
再びブランドを訪れる理由をつくることです。
その点でクレンジングは、単発の購入で終わらず、ブランドと生活者との接点を繰り返しつくりやすい商品といえます。
3.価格と商品力のバランスを取りやすい
現在、アテニアのクレンジングは175mLで2,200円、ファンケルのマイルドクレンジング オイルは120mLで1,980円です。
ドラッグストアの低価格商品と比べれば安価ではありませんが、デパコスの美容液やクリームよりは試しやすい価格です。
この「少し良いものを試してみたい」と思える価格帯が重要です。
必要なのは、失敗したときの心理的な痛手は大きくないが、ブランドの違いは十分に体験できる価格。
クレンジングは、このバランスをつくりやすいカテゴリなのだと思います。
4.ブランドの思想を「説明」ではなく「体験」に変えられる
アテニアが掲げる「官能品質」という言葉は、クレンジングに馴染みやすい。
- 肌の上をなめらかに動くオイル
- 摩擦を感じにくい厚み
- メイクがするするとほどける感覚
- 天然精油の香り
- 洗い流したあとの心地よさ
として体験できます。
実際にアテニアは、クレンジングを単にメイクを落とす時間ではなく、香りに包まれ、肌と心を解きほぐす時間として表現しています。2025年の受賞ページでも、育児や仕事、介護に追われる生活者にとって、夜のクレンジング時間が「自分に戻る時間」になっているという声が紹介されています。
ここに、アテニアのクレンジングが強い理由があります。
落ちる、つっぱりにくい、価格が手頃という機能的価値だけではありません。
ブランドが掲げる「心地よさ」を、毎晩約1分で体験できる商品になっている。
クレンジングは、ブランドの抽象的な思想を、生活者が理解できる具体的な行為に変換しています。
5.次の商品へのストーリーをつくりやすい
クレンジングは、スキンケアの最初に使う商品です。
そのため、
汚れや不要な角質を落とす
↓
肌を整える
↓
次に使う化粧水や美容液へ
というストーリーをつくりやすくなります。
アテニアも、クレンジングを「スキンケアのファーストステップ」と位置づけ、メイクを落とすだけでなく、その後のスキンケアにつながる商品として伝えています。
クレンジングでブランドとの接点をつくったあと、そのままローション、美容液、乳液、クリームへと関心を広げられる。
クレンジングは、単品で完結しながらも、スキンケアライン全体への入口をつくれる商品なのです。
同じクレンジングでも、3ブランドの「強さ」は異なる
アテニア、ファンケル、オルビスは、いずれもクレンジングが有名です。
しかし、3ブランドが同じ方法で選ばれているわけではありません。
ファンケルは「守りながら落とす」
ファンケルの「マイルドクレンジング オイル」は、累計販売数1.3億本を超える代表商品です。現在の商品では、肌のうるおいを守りながら、メイクや角栓などの不要な汚れを落とす独自技術が訴求されています。
ファンケルのブランド思想には、肌への負担になり得るものを取り除き、肌本来の力を大切にする考え方があります。
そのためクレンジングも、何でも強く落とすのではなく、必要なうるおいは守り、不要なものを選んで落とすという設計になっています。
つまりファンケルでは、ブランドの研究思想とクレンジングの機能が強く結びついています。
オルビスは「日常で使い続けられる合理性」
オルビスのクレンジングは、長く「クレンジングリキッド」がブランドの代表商品のひとつでした。
オイルカットという当時のオルビスらしい独自性に加えて、濡れた手でも使いやすい、すすぎやすい、価格が手頃といった、日常の中で継続しやすい理由がありました。
オルビスは2025年に「オルビス ザ クレンジング オイル」を発売しているため、現在のオルビスを単純に「オイルを使わないブランド」と捉えることはできません。
しかし一貫しているのは、生活者にとって無理がなく、合理的に続けられる商品をつくる姿勢です。
ブランドの独自性だけではなく、毎日の使いやすさまで設計する。
それが、オルビスのクレンジングの強さだと考えられます。
アテニアは「機能と官能を両立する」
アテニアの口コミを読んでいると、機能面に加えて、
「香りに癒やされる」
「クレンジングの時間が楽しみになる」
「スキンケアをしているように心地よい」
という声が目立ちます。
これは、ブランドが掲げる「官能品質」と、生活者が実際に感じている価値が一致しているということです。
香りを訴求しているブランドは多くあります。
しかし、香りが付いていることと、香りが商品の継続理由になっていることは同じではありません。
アテニアの場合、香りは単なる付加価値ではなく、「一日の終わりに自分を取り戻す」という使用場面まで含めて設計されています。
つまり、
- ファンケルは、守りながら落とす
- オルビスは、合理的に使い続けられる
- アテニアは、機能と官能を同時に満たす
同じクレンジングでも、生活者が選ぶ理由は異なります。
ブランドらしい理由で、そのカテゴリを選んでもらうことが大切です。
入口商品は、最初からつくられるのか
入口商品には、大きく3つの生まれ方があると考えられます。
1.ブランドの得意分野から生まれる
ブランド独自の研究、成分、技術、思想を最も表現しやすい商品を開発し、その結果として代表商品になるケースです。
ファンケルのクレンジングは、この要素が比較的強いと考えられます。
2.生活者から選ばれた商品が代表商品になる
ブランド側が想定していた以上に、使用感や価格、使いやすさが生活者に評価され、口コミやリピートによって代表商品へ育っていくケースです。
企業が主力にしたい商品と、生活者が最も支持する商品が、必ずしも最初から一致するとは限りません。
3.評価された商品を、ブランド側がさらに育てる
生活者から高く評価された商品に、ブランド側が広告、限定品、サイズ展開、詰め替え、キャンペーンなどを集中させ、入口商品としての役割を強めるケースです。
アテニアでは、通常サイズだけでなく大容量や詰め替え商品が展開され、友人にクレンジングのミニボトルを無料で贈れる紹介企画も行われています。
既存顧客が、新しい顧客に商品を紹介する接点をつくっています。
つまりヒーロー商品を、さらに新規顧客を連れてくる商品へ育てているのです。
クレンジングなら、何でも入口商品になるわけではない
ここまで読むと、「自社ブランドもクレンジングを入口にすればよい」と思うかもしれません。
しかし、すべてのブランドとクレンジングの相性がよいわけではありません。
クレンジングを入口商品にしやすいのは、次のようなブランドです。
- 初回使用でも違いを感じやすい
- 香りやテクスチャーに明確な個性がある
- メイク落ち以外の価値を伝えられる
- 継続しやすい価格で提供できる
- 毎日使ってもらえる処方になっている
- 次のスキンケア商品へ話をつなげられる
- リピート購入を支えるECやCRMが整っている
反対に、クレンジングに独自性がなく、価格だけで比較されてしまう場合は、入口商品として育てるのは難しくなります。
洗浄力が高い、保湿成分を配合している、摩擦を抑えられる。
これらは重要ですが、競合ブランドも同じことを伝えています。
その中で選ばれるには、そのブランドのクレンジングでなければならない理由が必要です。
アテニアなら、香りと心地よさまで含めて、一日の終わりを整えること。
ファンケルなら、肌を守りながら不要なものだけを落とすこと。
オルビスなら、毎日の中で無理なく使い続けられること。
機能ではなく、機能にブランドの考え方が重なったとき、商品は入口になりやすくなります。
自社ブランドの入口商品を考える5つの問い
入口商品を新たにつくる、または既存商品から見つけるときは、次の5つの問いが参考になります。
1.初回使用で違いが分かるか
広告を読まなくても、使った瞬間に他商品との違いが伝わるでしょうか。
2.初めての人でも購入しやすいか
価格、容量、使用方法、失敗への不安など、初回購入を妨げる要因が大きくないでしょうか。
3.ブランドらしさを体験できるか
その商品を使うだけで、ブランドが大切にしている価値や思想が伝わるでしょうか。
4.もう一度購入する理由があるか
使い切ったあと、同じ商品を選び直す具体的な理由があるでしょうか。
5.次の商品へ関心を広げられるか
入口商品を気に入った人が、化粧水、美容液、クリームなど、次の商品も試したくなる設計になっているでしょうか。
この5つをすべて満たす商品は、単なる売れ筋ではありません。
新しい顧客を連れてきて、ブランドとの関係をつくり、次の商品へつなぐ「事業の入口」になります。
ヒーロー商品は、ブランドだけではつくれない
入口商品は、単に価格が安い商品でも、広告費を集中させた商品でもありません。
ブランドが届けたい価値を商品に込める。
生活者が実際に使い、ブランド側が想定していなかった価値も発見する。
口コミやリピートによって評価が蓄積する。
その声を受けて、ブランドが商品や売り方をさらに磨く。
この循環によって、商品は少しずつ「このブランドといえば、これ」という存在に育っていきます。
ブランドが届けたい価値と、生活者が実際に感じる価値が、最も重なっている商品は何か。
そこに、次のヒーロー商品になる可能性があるのだと思います。

