「品質には問題がない」「価格も極端に高いわけではない」それにもかかわらず、なぜか新規購入につながらないことがあります。
反対に、機能や品質に圧倒的な差があるようには見えない商品が、自然と選ばれていくこともあります。
この違いは、どこにあるのでしょうか。
今回は、40代男性へのスキンケアインタビューをもとに、「悪くはないけれど、新規購入では選ばれない商品」について考えます。
結論から言うと、新規購入で選ばれない商品とは、消費者が、自分がその商品を選ぶ理由を見つけられない商品です。
40代になり、シェービング後の乾燥が気になり始めた
今回話を聞いたのは、40代の男性です。
もともとは洗顔だけで、化粧水や乳液を日常的に使っていたわけではありませんでした。
しかし、乾燥肌で、特に毎朝のシェービング後にヒリつきや違和感を感じていたことから、スキンケア商品を探し始めます。
冬場には目の周りや首元が乾燥し、皮がむけたようになることもありました。
若い頃は乾燥すると水で濡らし、一時的にしのいでいたそうです。しかし、時間が経つと再び乾いてしまいます。
40代になり、「そろそろ最低限のケアはした方がいい」と感じたことも、スキンケアを始めるきっかけになりました。
最初に本人が求めていたのは、複雑な美容効果ではありません。
シェービング後の肌を潤し、ヒリつきや乾燥を少しでも和らげるものでした。
この時点では、化粧水、美容液、乳液の違いや、それぞれの役割も十分に理解していません。
美容液についても、「洗顔やシェービングの後に肌を整えるもの」という程度の認識でした。
検索で見つけた商品を、順番に試していった
この男性は、店舗でパッケージを見て直感的に購入するよりも、インターネットで情報を探すタイプでした。
「男性用化粧水 おすすめ」といった言葉で検索し、比較サイトを見て、気になった商品があればAmazonに移動します。
その後、購入者レビューを確認し、「良さそう」と思った商品を試していました。
ギャツビーやウルオスなどの男性向け商品を中心に、いくつかの商品を使用しています。
某化粧品ブランドの男性向け洗顔料と美容液も、その一つでした。
実際に使った感想は、「使いやすかった」「悪くはなかった」と話しています。
一方で、「他の商品と比べて、ここがすごく良かったという点は分からなかった」とも話しています。
そして、その商品を使い続けることはありませんでした。
新規購入で必要なのは、「良さ」よりも「選ぶ理由」
企業側は、商品を選んでもらうために、
- 高品質である
- 肌にやさしい
- 保湿力がある
- 使いやすい
- こだわりの成分を配合している
といった商品の良さを伝えます。
しかし、同じような良さを持つ商品が多い市場では、それだけで購入にはつながりません。
消費者が新しい商品を購入するときに必要なのは、なぜ自分がこの商品を選ぶべきなのかという理由です。
今回の男性にとって、某ブランドの商品は、悪くはありませんでした。
ただ、購入後に、
- 自分の悩みに、なぜこれが合うのか
- ほかの商品ではなく、なぜこれなのか
- スキンケア全体の中で、どのような役割があるのか
- この先も使い続けるべきなのか
が、本人の中で明確にはなりませんでした。
新規購入では、商品について詳しく知らない消費者が、自分なりに判断しなくてはいけません。
そのときに選択のよりどころがなければ、「良さそう」と思っても、最終的に購入まで進めないことがあります。
消費者の知識が増えると、欲しい商品も変わる
この男性は、スキンケア商品を調べたり試したりするうちに、少しずつ知識を身につけていきました。
当初は、「シェービング後に何かをつけて潤せばよい」と考えていました。
しかし調べていく中で、
- 洗顔後には化粧水を使う
- 化粧水だけでなく乳液も使う
- 水分を与えた後に保湿する
- といった基本的なケアを知ります。
本人も、調べる中で化粧水だけでなく乳液も重ねた方がよいと知り、使うようになったと話しています。
ここで、本人が求める商品の条件が変わりました。
最初は、シェービング後に使う保湿アイテムが欲しいという状態でした。
しかし知識が増えたことで、洗顔、化粧水、乳液など、必要なケアを一式揃えたいと考えるようになったのです。
商品を検討している最中にも、消費者の理解や判断基準は変化します。
そのため、最初に興味を持たれたとしても、比較検討中に消費者の中で新しい基準が生まれると、その基準に合わない商品は選ばれなくなります。
無印良品は、必要なものが一式揃っていた
最終的に、この男性は無印良品のスキンケアに落ち着きました。
使用しているのは、泡で出る洗顔料、化粧水、乳液です。
無印良品を選んだ理由の一つは、同じブランドで必要な商品を一式揃えられたことでした。
スキンケアに詳しくない人にとって、商品が一つだけ提示されるよりも、
- 洗顔する
- 化粧水をつける
- 乳液をつける
という一連の流れが見える方が、ケア全体を理解しやすくなります。
また、異なるブランドから一つずつ選ぶ必要もありません。
本人も、商品ごとに購入場所が異なると続けるのが大変だと感じており、洗顔料、化粧水、乳液を一つのブランドで揃えられることを重視していました。
「敏感肌用・高保湿」が、選択のよりどころになった
無印良品を選んだもう一つの大きな理由が、
「敏感肌用」「高保湿」という表現です。
この男性は、
- 乾燥しやすい
- 荒れやすい
- 日差しを浴びると赤くなりやすい
- シェービング後にヒリつく
- という経験から、自分は敏感肌なのだろうと考えていました。
また、自分は乾燥肌なので、高保湿の商品がよいとも考えていました。
そのため、「敏感肌用」「高保湿」という商品名を見た瞬間に、
「これは自分に合いそうだ」と判断できました。
この言葉が響いたのは、表現が分かりやすかったからだけではありません。
すでに本人の中にあった自己認識と、商品側の言葉が一致したからです。
消費者は、商品の情報を一から理解して購入するとは限りません。
多くの場合、自分の中にある悩みや認識と、商品に書かれている言葉を照らし合わせています。
「敏感肌」
「乾燥肌」
「高保湿」
という言葉は、この男性にとって、普段から自分の肌を説明するために使っていた言葉でした。
商品側がその言葉を提示したことで、
自分と商品の関係を、消費者自身が説明できるようになったのです。
「悪くはないけれど、選ばれない商品」の特徴
今回のインタビューから考えると、選ばれにくい商品には、次のような特徴があります。
商品の良さは書かれているが、自分に合う理由が分からない
「高品質」「こだわりの成分」「肌にやさしい」と書かれていても、それが自分の悩みとどう関係するのか分からなければ、購入理由にはなりません。
商品単体の説明だけで、使用する全体像が見えない
その商品をいつ、どのように使うのか。
ほかに何が必要なのか。
使い続けると、どのようなケアが完成するのか。
全体像が見えないと、消費者は購入後の生活を想像できません。
比較したときに、違いを説明できない
競合商品と比べて明確な違いが認識できなければ、知名度、価格、買いやすさなど、別の分かりやすい条件で選ばれます。
消費者が使っている言葉と、商品側の言葉がずれている
企業側が専門的な成分や技術を伝えていても、消費者が日常的に使っている言葉と結びつかなければ、自分向けの商品だと認識されにくくなります。
購入後の使い方や継続方法が想像できない
どこで買うのか、何と組み合わせるのか、どのくらいの期間使うのか。
購入後の負担が見えない、あるいは負担が大きそうに見える商品は、最初の購入でも避けられやすくなります。
選ばれる商品は、判断の負担を減らしている
無印良品が今回の男性に選ばれたのは、何か一つの機能が圧倒的だったからではありません。
- 「敏感肌用・高保湿」で自分向けだと分かる
- 洗顔、化粧水、乳液が揃っている
- 使う流れを理解しやすい
- 価格が手頃である
- 近くの店舗で購入できる
- 知っているブランドで安心感がある
という条件が重なっていました。
一つひとつは、小さな違いかもしれません。
しかし、これらが揃うことで、
「自分に合うのか」
「何を買えばよいのか」
「どう使えばよいのか」
「続けられるのか」
を考える負担が小さくなります。
選ばれる商品とは、消費者にたくさん考えさせた末に選ばれる商品とは限りません。
むしろ、消費者が迷わず、自分なりの理由を持って決められる商品です。
まとめ|不満がない商品ではなく、選ぶ理由がある商品へ
悪くはないけれど、購入では選ばれない商品。
それは、商品の良さと消費者の悩みが結びつかず、「なぜ自分がこれを買うのか」という理由が完成していない商品です。
今回の男性も、最初はシェービング後に肌を潤す商品を探していました。
しかし、調べる中でスキンケアの知識が増え、化粧水や乳液を含めてケアを揃えたいと考えるようになります。
そのとき、
- 必要な商品が一式揃う
- 「敏感肌用・高保湿」で自分向けだと分かる
- 価格が手頃
- 購入しやすい
- 使い方が分かりやすい
という条件を満たした無印良品が、購入候補になりました。
無印良品が選ばれたのは、最も高機能だったからとは限りません。
本人の中にある悩みや知識、生活条件と、商品の特徴が最も無理なくつながったからです。
消費者が、「自分はこういう悩みがあるから、この商品が必要だ」「これを選べば、自分に必要なケアができそうだ」と、自分の言葉で購入理由をつくれること。
その状態をつくることが、購入につながる商品設計やコミュニケーションではないでしょうか。

