美容に関するインタビューをしていると、
・同じ化粧品を長くリピートする派
・日常的に使用する化粧品をコロコロ変えている派
2パターンに分かれます。
また、それはアイテムによっても異なり、化粧水、美容液、クリームは同じものを使うけど、クレンジングや洗顔はコロコロ変えるというタイプもいます。
今回は、地方在住のKさんに、これまで使ってきた化粧品についてインタビューしました。
Kさんは、化粧水、美容液、クリームは同じ商品を使い、クレンジング、洗顔はコロコロ変える期間が長かったとおっしゃいます。
インタビューを通じて見えてきたのは、基礎化粧品は同じ商品を続けたいという価値観を持っている人において、どのブランド・商品を選ぶのかは、複数の評価項目を組み合わせた「総合得点」で決まっている、ということです。
特に、数千円程度の日常使いのスキンケアでは、この「総合得点」が大きく作用していると感じます。一方で、高額なラグジュアリーコスメや、ブランドそのものへの強い憧れを伴う商品ではまた違った構造があると思いますが、今回は、比較的日常的に購入される価格帯の基礎化粧品について考えてみます。
「好きだった商品」でも、総合得点が下がれば離れる
今回お話を聞いたKさんは、以前、イプサを長く使っていました。商品そのものを気に入っており、店舗で肌診断を受けられることにも魅力を感じていました。当時は、イプサの店舗がある街を経由して職場に通っていたため、店舗にも立ち寄りやすく、商品を購入することが日常の中に自然に組み込まれていました。
ところが、職場が変わり、イプサの店舗がある街を通らなくなったことをきっかけに、イプサから違うブランドへ乗り換えたとお話してくださりました。
この場合、イプサに対する評価が下がったわけではありません。それでも、「イプサを買うためだけに○○へ行く」という行動が必要になったことで足が遠のき、やがてドラッグストアなどで購入できる別の商品へと移っていきました。
ここで興味深いのは、「商品が嫌いになったから離れた」のではないことです。
商品への好意や使用感は大きく変わっていない。しかし、生活導線という一つの評価項目が変化したことで、商品全体の「使い続けやすさ」が下がった。結果として、別の商品が選ばれるようになったと考えることができます。
化粧品ブランドから顧客が離れる理由を考えるとき、商品への不満や競合商品の魅力に目が向きがちです。しかし実際には、顧客自身の生活環境が変化したことで、それまで成立していた「総合得点」が変わる場合もあります。
化粧品の「総合得点」を構成するものは何か
では、化粧品を使い続けるとき、人は何を評価しているのでしょうか。
今回のインタビューや、これまで生活者の話を聞いてきた中で考えると、少なくともいくつかの要素に分けて考えることができそうです。
この成分が入っているからとか、使用感が良いからとか、コスパが良いからとか、何か1つの事柄だけが強調されて選ばれるのではなく、「総合得点」という考えが見えてきました。
では、基礎化粧品は同じ商品を使い続けることに価値を感じる派の生活者が、化粧品を選ぶうえでの「総合得点」とはどんな要素があるのか。
その一つ目は、効果や肌状態への評価です。
ただし、ここでいう効果は、必ずしも劇的な変化を意味しません。今回の方も、使用していた商品について「明らかに白くなった」といった強い実感を語っていたわけではありませんでした。一方で、肌荒れしにくい、メイクのりが極端に悪くならない、一定の落ち着いた肌状態を維持できている、という感覚は持っていました。
化粧品では、この「大きく良くなった」ではなく「悪くならない」「なんとなく調子がいい」という評価も、継続には重要なのだと思います。
二つ目は、価格の持続可能性です。
重要なのは、「その金額を一度払えるか」ではなく、「その金額を払い続けても負担にならないか」です。
今回の方は、SK-IIを使っていた時期もありましたが、継続には至りませんでした。化粧品は毎日使い続けるものだからこそ、自分が長期的に払い続けられる価格でなければ難しいと話しています。
同じ1万円でも、単発で購入する商品と、毎月あるいは数カ月ごとに補充し続ける商品では、心理的な評価は異なります。価格を見る際には、単価そのものよりも「この支出を生活の中に組み込み続けられるか」という視点が必要になります。
三つ目は、購入導線です。
どこで買えるのか。なくなったときにすぐ購入できるのか。生活のついでに買えるのか。そのためだけに時間を確保する必要があるのか。
今回のイプサの例は、この要素が継続に大きく影響した事例です。店舗へのアクセスが生活導線上にあったときには問題にならなかったものが、生活環境が変化したことで急に負担になります。
四つ目は、使用感や日々の生活へのなじみやすさです。
テクスチャー、香り、容器、使用工程、朝晩の使いやすさ、他の商品との組み合わせやすさなど、単体では小さく見える要素でも、毎日繰り返すことで評価に影響します。
一度だけ使う商品であれば許容できる小さな不便も、365日繰り返すとなれば話は変わります。日常的な基礎化粧品では、「使うたびに特別な感動があること」よりも、「毎日の中でストレスにならないこと」のほうが継続に強く影響する人もいるでしょう。
五つ目は、安心感です。
肌に合うと分かっていること、過去にトラブルがなかったこと、信頼できるブランドであること、口コミが安定していること、友人や専門家など信頼できる人が使っていることなどが含まれます。
化粧品には、使ってみるまで自分の肌に合うか分からないという不確実性があります。一度問題なく使えたという経験そのものが、次回購入時の安心につながり、別の商品に乗り換える心理的なハードルを高めることがあります。
六つ目は、自分の目的との一致です。
美白、乾燥、毛穴、エイジングケアなど、自分が化粧品に求めているものと、その商品の役割が一致しているかどうかです。
Kさんは、中学生の頃の日焼け経験などを背景に、「白い肌でいたい」という志向が長く続いていました。現在の美容への優先順位そのものは非常に高いわけではなくても、「白い肌が好き」という方向性は比較的長く変わっていません。
そして七つ目として、ブランドや売り場、人との関係性も考えられます。
同じ機能、同じ価格の商品であっても、ブランドへの信頼、店員との関係、売り場への安心感、友人から勧められたという背景などによって評価が変わることがあります。
つまり、「商品を使い続ける理由」は商品のスペックだけで完結しているわけではありません。商品を取り巻く購入体験や人間関係まで含めて、一つの総合評価が形成されていると考えたほうが実態に近いのではないでしょうか。

すべての項目を単純に足し算しているわけではない
ただし、この「総合得点」という考え方は、それぞれの項目を単純に10点満点で採点し、合計点が高い商品を選ぶという意味ではありません。
むしろ、化粧品選びには「足切り条件」が存在するように思います。
たとえば、どれだけ効果が高くても、自分の肌に刺激を感じる商品は使えない。どれだけ好きなブランドでも、毎月の支出としては高すぎれば継続できない。商品そのものが素晴らしくても、購入するために大きな手間がかかるようになれば、別の商品を探すきっかけになるかもしれません。
つまり、ある項目については「他の項目で補える低得点」ではなく、「一定ラインを下回った時点で候補から外れる」ことがあります。

今回の方にとって、SK-IIでは価格が継続のハードルになりました。一方、旅行先などで使ったトライアル商品でかゆみを感じた経験については、肌に合わないものを無理して使うことはできないと話しています。
この二つは、同じ「マイナス評価」でも性質が異なります。
価格については、多少高くても他の価値との兼ね合いで許容できる可能性があります。しかし、強い肌トラブルが起きるのであれば、それ以外の項目が高得点でも継続は難しい。
そのため、ブランド側が顧客理解をするときには、「何を評価しているか」だけでなく、何が最低条件になっているかを知ることも重要です。
人によって「配点」が違う
そして、総合得点という考え方で最も重要なのは、人によって各項目の「配点」が違うということです。
ある人にとっては、何より効果が重要かもしれません。多少価格が高く、購入する手間がかかっても、明確な効果実感があるなら使い続ける。
一方で、別の人は、劇的な効果を求めているわけではなく、肌トラブルなく使えて、価格も無理がなく、近くで簡単に購入できることを重視しているかもしれません。
さらに別の人にとっては、ブランドの世界観や商品を使う時間そのものが重要であり、価格や利便性の比重が低い可能性もあります。

同じ「価格・効果・成分・口コミ・購入導線」を見ていても、それぞれに置かれている重みは異なります。
仮に100点満点で考えた場合、ある人は「効果」に40点を配分し、「価格」は10点しか見ていないかもしれません。しかし別の人は、「価格」と「購入しやすさ」で50点を占め、「ブランド」はほとんど評価項目に入っていないかもしれない。
総合得点が高い商品ではなく、「選び直す必要のない商品」が残ることもある
さらに考えたいのが、人は常に市場に存在する商品の総合得点を比較し続けているわけではないということです。
今回お話を聞いたKさんも、商品を選ぶ際には口コミなどを調べる一方、一度「まあまあいい」と思える商品に出会えば、頻繁に別の商品を試すのではなく、そのまま長く使うタイプだと話していました。選ぶことそのものを負担に感じる部分もあります。
つまり、仮に現在使っている商品が75点だったとしても、世の中に80点の商品があるというだけでは乗り換えは起こらないかもしれません。
新しい商品を探すためには、情報を集め、比較し、購入し、自分の肌で試す必要があります。そこには時間も手間も失敗のリスクもあります。
現在の商品が「十分にいい」のであれば、わざわざ再び比較検討を始める理由がない。
そう考えると、化粧品ブランドにとって重要なのは、顧客に「改めて選び直す必要がない」と感じてもらえる状態を維持することなのかもしれません。
ブランドが見るべきなのは、「何点か」より「どこで点を取っているか」
「総合得点」をマーケティングに活用するとき、単純に「自社商品の点数を上げよう」と考えるだけでは不十分です。
重要なのは、自社の商品を使い続けている顧客が、どの項目に高い点数をつけているのかを理解することです。
たとえば、購入導線への配点が高い顧客が多いのであれば、商品自体をさらに高機能化するより、購入のしやすさや定期購入、ECでの再購入体験を改善したほうが継続につながる可能性があります。
安心感への配点が高いのであれば、新成分を次々に追加するよりも、長く使っていることへの安心や、肌との相性を確認できる仕組みのほうが重要かもしれません。
効果への配点が高いのであれば、商品開発だけでなく、使用を続けることでどのような変化が期待できるのかを伝えるコミュニケーションが必要になります。
さらに、現在高得点を得ている項目が、生活環境の変化によって下がったときに何が起こるのかも考える必要があります。
今回のイプサの例では、「生活導線上に店舗がある」という項目が、職場の変化によって急激に下がりました。もしそのとき、店舗で築いていた関係がオンライン購入へ自然につながっていたら。店舗で受けていた肌診断や購入履歴がオンラインでも継続していたら。別の項目によって、低下した点数を補うことができた可能性もあります。
「なぜ離れたのか」を商品への満足度だけで捉えず、どの評価項目の点数が変化したのかという視点で見ることで、ブランド側が考えられる施策は増えていきます。
自社ブランドの「総合得点」は、何でできているだろう
化粧品は、単一の機能だけで選ばれ、使い続けられているわけではありません。
効果、価格、肌との相性、使用感、成分、購入導線、安心感、自分の目的との一致、ブランドや人との関係性。さまざまな要素が組み合わさり、さらに人によって配点が異なります。
加えて、「これだけは満たしてほしい」という足切り条件もある。
この構造を考えると、顧客理解のために本当に知りたいのは、「なぜこの商品を買ったのですか」という一度の購買理由だけではないように思います。
自社の顧客は、何に高い配点をしているのか。どこが足切り条件なのか。そして、今その関係を支えている得点が下がったときに、何によって関係をつなぎ直せるのか。
この問いを持つことが、商品開発、広告、EC、CRMなど、それぞれの施策を考える出発点になるのではないかと思います。

